黙示の指示とは?
「残業しろとは言っていない」
「早く来るようにとは指示していない」
それでも、労務トラブルの場面では
“会社の指示があった” と判断されることがあります。
そのときに問題となるのが、「黙示の指示」 です。
言葉にしていないにもかかわらず、結果として“指示と同じ扱い”を受けてしまう。
多くの経営者が、ここに違和感や理不尽さを感じます。
ただし、裁判所の考え方は「経営者を罰する」視点ではありません。
ポイントは、職場の実態としてどう受け取られる状況だったか にあります。
「黙示の指示」の考え方
- 黙示の指示とは、明確な命令がなくても、事実上「やらざるを得ない状況」があれば指示と同視される
- 判断の軸は「言ったかどうか」ではなく、職場の運用・雰囲気・期待の示し方
- 経営者に求められるのは、言葉を厳密に管理することよりも、誤解が生じにくい仕組みづくり
裁判では何を見て『黙示の指示』と判断されるのか
法律上、労働時間や業務命令は
「使用者の指揮命令下にあるかどうか」で判断されます。
ここでいう「指揮命令」は、
必ずしも明確な業務命令や文書による指示に限られません。
判例では、概ね次のような観点を総合して判断されます。
- 業務上、その行為が事実上必要とされていたか
- 上司や会社が、それを黙認・容認していたか
- 行わなければ、評価・業務遂行・職場での立場に影響が出る状況だったか
- 会社が結果として、その行為の成果を利用していたか
これらが重なると、
「明示の指示はないが、実質的には会社の指示と同じ」
=「 黙示の指示」 と評価されることがあります。
実務上の注意点・よくある落とし穴
黙示の指示が問題になる場面には、共通する傾向があります。
- 「みんなやっているから」という職場慣行
- 成果やスピードだけが評価され、プロセスが問われない評価制度
- 上司が把握していながら、是正も注意もしない状態
- 労働時間や業務範囲が、曖昧なまま運用されている
これらは、経営者の悪意とは無関係に生じます。
むしろ、「頑張ってくれているから」「細かく言わなくても分かるだろう」という善意が、
結果として黙示の指示と受け取られることも少なくありません。
まとめ
黙示の指示の問題は、
「言った・言わない」の水掛け論ではありません。
本質は、
社員が迷わず、安心して判断できる環境があるか
という経営の問題です。
- どこまでが業務なのか
- いつ会社の判断を仰ぐべきなのか
- 勝手に頑張らせない仕組みになっているか
これが整理されていれば、
黙示の指示が問題になる場面は大きく減ります。
労務管理は、経営のブレーキではなく、
社員の力を正しく活かすための土台 です。
「言っていないのに問題になる」状態を避けることは、
同時に、経営判断を明確にし、組織を強くすることにもつながります。

